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東京家庭裁判所 昭和53年(少)3057号 決定

少年 T・K(昭三三・九・一四生)

主文

少年を医療少年院に送致する。

理由

(非行事実)

少年は、昭和五一年七月七日、当裁判所において毒物及び劇物取締法違反保護事件について、東京保護観察所の保護観察に付する旨の決定を受け、同所の保護観察を受けているものであるところ、同所が定めた特別遵守事項(1親もとに落ち着き規律正しい生活をすること、2交友関係の改善を図ること、3飲酒・シンナー吸引を断つこと)を積極的に守らず、保護観察決定後一ヶ月ぐらいは両親の営む焼鳥屋を手伝つたが、既にその間にも酒を飲み、仕事をやめた後はほぼ連日酒を飲みに出かけあるいはシンナー吸引を再び始め、飲酒代など月二、三〇万円は母親からせびつてきた。そして同年一一月ころから同年末ころまで少年の不良交友とシンナー吸引を断つため、少年は父親の友人宅へ預けられたが、飲酒は止まず、帰宅後間もない昭和五二年初めには二、三週間○○会○○○一家○○○○一家の者とともに露店商をし、同人のアパートや○○会の事務所に止宿した。その後帰宅し無為徒食するうち、頻繁にシンナーを吸引し、幻覚を見るようになつたため、同年二月上旬自ら希望して病院に入院するが、同年六月上旬退院するまでの間三回ほど逃走した。そして帰宅後義兄の経営する工務店に大工見習として勤務したが、連日のように飲酒しまた再三外泊し、同年九月中旬ころ酒に酔つて自宅二階から転落し腰椎骨折で入院し、同年一〇月一一日退院するまでの間にも酒を飲むための無断外出が何回かあり、退院帰宅後も家を抜け出して酒を飲みに出かけ、シンナー吸引を繰り返し、酔うと母親などに乱暴しては金をせびるなどの行状を続けた。更には同年一二月から昭和五三年一月にかけ飲酒・シンナー吸引のほか、前記○○会関係の者から覚せい剤を譲り受けて都合五回位自己使用し、その後も依然として泥酔するほど連日のように飲酒するなど、両親及び担当保護司などの正当な監督に服しない性癖があり、犯罪性のある人若しくは不道徳な人と交際し、自己の徳性を害する行為をする性癖のあるもので、その性格及び環境に照らして将来毒物及び劇物取締法違反あるいは覚せい剤取締法違反等の罪を犯すおそれがある。

(適条)

少年法三条一項三号イ、ハ、ニ

(処遇の理由)

1  少年の保護観察決定後現在に至るまでの状況は前記非行事実欄に詳細記載したとおりであつて、少年のシンナー吸引・飲酒及び覚せい剤使用などの嗜癖化傾向は著しく、容易にこれを改善することは困難と認められる。なぜなら、少年の飲酒等への耽溺は、両親共稼ぎの下で異母姉と年子の弟の中で十分な基本的しつけ訓練を受けず放任されたこと及び激し易く粗暴な父親によつて幼少時から過酷な体罰を受け、それが現在に及んでいることとがあいまつて、少年の補償的・逃避的な行動として現われたものと解される(少年の顕示的な性格傾向からは父への乱暴という反抗行動、その他第三者との些細な原因によるけんか抗争という形で現われる。)加えて少年の前記行状もあつて、保護者両親は少年の指導に全く自信を失つており、少年自身も父親に対しては基本的な信頼感を持てないでおり、また母親は甘く少年を指導できる能力に乏しいこと及び担当保護司もまた少年の施設収容を希望する状況であることから考えても、もはや少年を再び家庭に戻しそこでの更生を期待することは困難というほかはない。

2  そして少年の生活歴及び調査記録・鑑別結果通知書など本件記録にあらわれた顕示的でわがままかつ粗暴な性格傾向など少年の心身の成熟度並びに環境を総合考慮すると、もはや在宅による処遇の域を越えたものと考えられるので、少年を施設に収容したうえ、そこでの専門家による日常的で厳格な生活指導及び規則正しい集団生活の体験を通して、社会性の涵養を図り、もつて少年の健全な育成を期すことが相当と認められる。

3  しかし少年は現在腰椎骨折による後遺症があり、専門医による経過観察を経たうえでなければ通常の少年院における処遇に耐えられるかどうか不明であるので、当面少年を医療少年院に送致し、右後遺症の経過を診たうえ、できるだけ早期に生活指導を主とする少年院(少年の年齢及び犯罪的傾向の進度から考えて中等少年院が相当と思料される)に移し必要な矯正教育が施されるよう希望する。なお少年院収容中、少年院においては保護観察所などを通じて家族特に前記事情から父親に接触したうえ、少年との信頼関係を相互に高めるなど、調整を図られるよう特に考慮されたい。

よつて少年法二四条一項三号、少年審判規則三七条一項、少年院法二条五項を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 長島孝太郎)

参考 (少年調査記録経過一覧より抜粋)

昭和五三年 三月二九日 医療少年院送致決定

三月三〇日 関東医療少年院入院

六月 九日 診断書(コルセット着用すれば病状の変化なし、運動制限なし)

六月一七日 移送求意見書送付

六月二一日 移送意見回答(移送相当)受理

七月 七日 移送申請書送付

七月一七日 移送認可書受理

七月二一日 八街少年院へ移送

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